世界自然遺産や国立公園に認定された希少なやんばるの自然のことをもっと知る
亜熱帯の木々が生い茂る広大な森が面積の85%近くを占める国頭村。その森の中には世界的にめずらしい固有種・希少種が数多く生息していることから、村域の多くは2016年に「やんばる国立公園」に指定され、さらに2021年には「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の一部として世界自然遺産に登録されました。
ここ安波も区の約半分が世界自然遺産の緩急地帯や登録区域になっています。有史以前から安波の人びとの暮らしは、こうした自然と共にありました。昔ながらの地域文化や信仰も自然への感謝や畏怖に満ちています。ここでは安波集落の日常を彩る自然の美しさをご紹介します。散策の際にはハブやハチなどの危険生物や有毒な植物、滑落などに十分ご注意ください。また、ガイドなしでの夜間の散策は控えましょう。
安波区の暮らしの中心にあり、
沖縄第一の巨川といわれた安波川
安波の集落の中心部を流れる安波川は、沖縄本島最高峰の与那覇岳を源流として太平洋に注ぐ2級河川で、流域面積は42.1㎢。
1881年に沖縄県令(廃藩置県によって設置された沖縄県の首長)として赴任した上杉茂憲の『上杉巡回日誌』には「沖縄一の巨川」と記されており、かつては洪水による被害も多かったといいます。1983年に完成した安波ダムの建設目的のひとつには洪水調節があり、総貯水量は186万m3。現在の安波川の流れは穏やかで、清流の中にはオキナワミナミサワガニ、オオウナギやコンジンテナガエビなど、地域特有の生き物も数多く生息しています。また、河口付近の砂丘からは沖縄貝塚後期の「安波貝塚」が発見されており、先史時代から人びとの営みがありました。
奇岩・リュウキュウスフィンクスと
朝日が美しい安波海岸・安波漁港
安波川の河口と太平洋が交差する海辺には、砂浜と漁港があります。この浜では旧暦の4月に、その年に生まれた赤ちゃんの健康を祈願する「アブシバレー」という行事が行われます。砂浜の向こうに見えるのは波によって侵食された奇岩「リュウキュウスフィンクス」! 沖縄では地域や民家を守る「シーサー」をよく目にしますが、一説によるとエジプトのスフィンクスがシルクロードを経由して伝わり、中国では獅子に、沖縄ではシーサーに、日本では狛犬になったとか。リュウキュウスフィンクスも安波を守ってくれる存在なのかもしれません。ここから見える朝日はとてもきれい。サーファーに人気のポイントですが、波が高いので小さなお子さま連れの遊泳は控えましょう。
波打つ板根が特徴 樹齢200年のサキシマスオウと
一夜限りの芳香を漂わせるサガリバナ
安波川の河口近くの海岸湿地帯には、沖縄県指定天然記念物の「安波のサキシマスオウノキ」の群生が見られます。サキシマスオウノキはアオギリ科の高木で板状の波打つ根っこが特徴です。世界的にはアフリカやポリネシア、熱帯アジアやハワイにかけて分布しており、安波の群生は分布の北限に近い個体群。古い木は推定樹齢200年以上といわれています。さらに、この場所で6月〜9月ごろにかけて咲く「サガリバナ」も安波の美しい景観のひとつ。サガリバナは夕暮れごろ、淡い芳香を漂わせながら咲きはじめ、その日咲いた花は翌朝には散ってしまいます。花言葉は「幸福の訪れ」。日本では南西諸島でしか見ることができない魅惑的な花なのです。
安波の信仰の対象にもなっている滝
シラフンガー(タキガー)
沖縄では井戸や湧水・川などの水の給源のことを「カー」と呼び、多くの場所は御嶽(うたき=拝所)として崇められています。安波には4つのカーがありました。カーは生活用水や飲み水の供給源としてだけでなく、地域の重要な行事の際にお清めをしたり、祈りを捧げる場としても機能していました。安波集落のはずれにある滝「シラフンガー(タキガー)」は現存するカーのひとつ。かつてはシラフンガーと安波川(ウフガー)の水が合流するあたりで、産水や正月の若水を汲んでいたといいます。また、日照りの際にはシラフンガーで雨乞いが行われました。現在もシラフンガー周辺は神聖な雰囲気があり、付近の森ではやんばるの特徴的な木々や生き物を目にすることができます。
琉球列島ならではの希少種・固有種にこんにちは!
安波で出逢える多彩な生き物たち
今から約1,200万年前、琉球列島はユーラシア大陸の一部でした。その後200万年前までの間に大規模な地殻変動や気候変動が起き、琉球列島は大陸から分離しました。そのため、大陸ではすでに絶滅してしまった種や独自に進化を遂げた固有種が生息しているのが琉球列島の特徴。日本の面積の1%にも満たない小さな島々に他の地域に類をみない生物多様性があるのが、琉球列島が世界自然遺産に登録された理由です。安波の暮らしのなかでも、ヤンバルクイナやリュウキュウハグロトンボ、ツマベニチョウやオキナワキノボリトカゲといった沖縄島北部特有の生き物にあたりまえのように遭遇します。これらの多くは天然記念物や絶滅危惧種に指定されている、世界的にも珍しい生き物なのです。